大阪大学理学研究科生物科学専攻
植物生長生理研究室
最近と現在の研究
内鞘細胞のアイデンティティー決定のしくみと側根形成のしくみ
側根形成は、内鞘(pericycle)細胞と言われる維管束系を取り囲む細胞の増殖により開始されます。均質な内鞘細胞でもオーキシンを集める細胞が現れ、これが側根原基の創始細胞になります。創始細胞は不等分裂を繰り返して側根原基が形成されます。
シロイヌナズナの根において、オーキシンに応答して細胞分裂を行う能力、側根原基を作る能力を持っているのは内鞘細胞だけです。内鞘細胞だけがどうしてこのような能力を持っているのでしょうか。私たちの研究により、PFA/PFB転写因子複合体がその能力を支配していることを見出しました(Ye Zhang……Tatsuo Kakimoto, Nature Plants, 2021)。
現在の研究と今後の展開: PFA/PFBによって支配される転写ネットワークはどうなっているのかを調べています。また、内鞘細胞が分裂して側根になる過程は、均一な細胞群が組織化された細胞群になる過程、すなわち自己組織化です。これを支える細胞間コミュニケーションの仕組みも研究しています。
維管束のパターン形成のしくみ
植物の維管束組織は、木部、篩部、前形成層からなります。篩部は、植物の栄養分を運ぶ通路である篩管と、栄養分の積み込み、積みおろしに関わる伴細胞からなっています(図1. 左)。篩管の細胞(篩要素)は生きていますが核を持たず、伴細胞に依存して生きています。木部は道管から構成され、水を輸送します。根では根端近くの細胞は未分化であり、根端から離れるに従って各細胞列の分化が進みます。
根で吸収された水は道管を通って地上部に運ばれ、気孔から気体として放出されます。この通道器官である道管と気孔の数はどちらも分泌CLE9/10で制御されていることを見出しました。根でBAM受容体–CIK共受容体複合体がCLE9/10を受容すると道管の数を抑制し、葉でHSL1 receptor–SERKs 共受容体複合体がCLE9/10を受容すると気孔の数を抑制することを明らかにしました (Qian et al., Nature Plants 2018)。
篩部の発生についても研究しています。篩部領域(篩部前駆細胞も含む)で発現している複数のDofタイプ転写因子(phloem-Dof)は篩部細胞形成のマスター調節因子として働いて篩部を構成する細胞になることを指示するとともに、分泌性であるCLEペプチドであるCLE25, 26, 45を誘導し、周辺細胞に作用して篩部にならないようにしていることを見出しました(Qian et al., Nature Plants 2022)。
現在の研究と今後の展開:phloem-Dof転写因子は、篩管と伴細胞の形成を誘導することができる転写因子です。Phloem-Dofによって支配されている遺伝子の働きを調べています。CLE25/26/45は篩部形成の際に側方阻害因子をして篩部領域が広がることを抑制していることを示しましたが、CLEの働きはそれにとどまらないこともわかってきました。
細胞極性制御のしくみ
多くの細胞には方向性があり、細胞分裂の方向も制御されています。特に植物では、細胞分裂の後に細胞は移動することができないため、細胞分裂の方向決定は重要です。
Gタンパク質は、GTP結合型とGDP結合型をとることにより情報伝達のスイッチとなるタンパク質です。なかでも、RhoタイプGタンパク質は、動植物においては細胞の分裂や細胞極性などの制御に関わっています。植物のRhoタイプGTP結合タンパク質はRho of Plants (ROP)と呼ばれます。私たちは活性化されたROPに結合するRIPタンパク質が、植物の葉の細胞分裂方向、ひいては葉の形の調節に関わることを見出しました(Plant Cell Physiology, 2022)。
シロイヌナズナにはRIPタンパク質をコードする遺伝子が5つありますが、GFPと融合する実験で、これら全てのRIPタンパク質は微小管に結合することを見出しました。これら5つのRIP遺伝子を全て破壊した植物(rip1/2/3/4/5)では、微小管の重合末端の動きが早くなっていました。植物では細胞の分裂の前に、細胞膜の直下に微小管の束であるPreprophase band(PPB)が形成され、PPBがあった位置に細胞の分裂面(細胞板)が形成されます。rip1/2/3/4/5では葉において葉の長軸方向のPPBが減少すること、その結果、葉の横軸方向のPPBが減少し、細い葉ができることを見出しました。
現在の研究と今後の展開:発表論文ではROPのエフェクターであるRIPタンパク質の解析を行いましたが、細胞極性制御におけるROPやこれらの制御因子などの役割解析も行っています。